ホウチガブログ

~方向性の違いでブログ始めることになりました。~

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〈146.幸せの村〉

2月21日。村について2日目。鳩と鶏がやたらうるさい。おまけにヤギも賑やかに騒いでいる。こちとら飛行機にバスに山登りに疲れとんじゃあ。無理やり二度寝することにした。

だいぶ寝過ぎたかしら。のそのそおきて、窓を開けると卵さんが掃き掃除をしている。お父さんお母さんも家畜の世話やら焚き火やら忙しそうだ。何か手伝わないとな。時間を確認すると7時20分とかそんなもんだった気がする。

 

ヤギに戯れて朝焼けにホレボレしていると、朝ごはんができたとおかあさんが声をかけてくれた。甘ったるいコーヒーとインスタントのスープ麺を食べさせてくれた。まだ日も高くなく、寒い中畑へ向かった。

 

向かい始めてすぐ。なんというか、崖なのだ。しかも朝露で湿っている。死がすぐそこにいたことを思い出した。二度三度すべった。尻餅ついたお陰で滑らずに済んでいるが、一歩間違えれば崖を転がるしかない。考えなければいいことを考えると足が震えた。強がっていたが、あれは間違いなく震えていた。

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2,30分崖を降りる。

"畑ついたよ。"

え?いやまだ崖ですけど。

よくよく見ると、根元付近の幹に色のついた輪が巻かれているので、ちゃんと見分けがつくようにされていることがわかる。とはいえ、さっきと同じような崖だ。多少土がふかふかしているような気がするけど。

 

いわゆる棚田のような、いやもはや"小物入れ畑"と言うのがよかろう。苗を二つ三つ植えて、少し降りてまた苗があって。こんなところによく育てるなあ。一歩滑れば…。

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農業のプロの卵さんが農作業を始めると、暇になった。手伝う仕事を片付けると、勝手に探検してみることにした。広がる自然と死の崖。小学生の夏休みみたいに全身を使ってはしゃいだ。何度も滑ったし転んだし、わけわからん木にアタックかけてみたり。木登りっぽいことをしたり、畑を下まで降りて水の流れにはしゃぎ、登るのにヘトヘトになり、大地に昼寝をした。心地よい風と暖かさが包んでくれる。

 

卵さんの農作業に一区切りがつき、お父さんからお昼ご飯ができたとの連絡が入った。卵さんはお疲れのようだった。そりゃあ崖を登り降りしてマップ作っていらっしゃるんですもん。だが、無情にもあと数十分登るんだなあ。

帰りの登りは、探検のおかげでそれほど負担はなかった。死の感覚も薄れた。怖いんだけどね、怖いけど風景を楽しめるようになった。

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お昼ご飯は辛いカレーライス。これまた美味しいのだが、量がすごい。俺を一杯で満腹にさせるってのはすごいぞおかあさん。

 

気持ちのいい昼寝を小一時間挟み、再び農場へ向かうために崖を降りる。午後は少しは役立ちたいので冒険はせず卵さんの近場をウロウロした。土壌分析やら数百ある苗の分布図やらよくわからないことをしていた。プロ農業家の卵だけあってかっこいいなあと思う。

だけど、ワクワクするものが広がっているので冒険したくて仕方ない。適当に大きめの枝を拾って武器を作ることにした。最初は枝を切り株に擦り付けてペカペカにしたが、石で削るとより綺麗で早くてスベスベする。隣で土を色をつける液体に入れてアルカリ性とか一生懸命に調べているとき、こちらは一生懸命に削った。気づけば遠くに行ってしまわれた。せっかくプロの観察しようと思ったのに。崖にしりもちをつきながら、広がる数十メートル下の大地に恐れながら、じわじわと這いつくばって、よじ登ってマップづくりの近くに来れた。ちょっと手伝いつつ、やはり枝が気になる。小学生の頃、となりでドッジボールとか鬼ごっことかしている時に泥団子づくりにはまったのを思い出した。なにかモノをつくりたいのはその頃だったんだなあ。

あら、またどっか行っちゃったよ。

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日も落ち始め、暗くなりそうなころ、夕飯時だから帰って来いとお声をかけられた。作った武器を杖にして崖を登る。この卵さんは何十回もここを昇り降りしてるんだもんなあ。そりゃあたくましくなりますわ。

 

家について、なによりもまず軟膏を貸してもらった。武器づくりに懸命になりすぎて変な葉っぱに触ってしまった。チクチクする。数時間経つまた今もチリチリするような不思議な感じ。自然は怖いねぇ…。

 

夕飯を作っている途中、停電になった。停電になると復旧に時間がかかる。スマホで照らして懐中電灯を照らすと料理はできるみたい。やれやれとお母さんが言っているような感じのことを言っていた。夕飯まで食いつないでと出されたココナッツをコーヒーとともにちびちびやっていると、卵さんが外へ誘う。暗いのに外に出るのは危ないなあと慣れの違いを感じつつ、のそのそ、おっかなびっくり家を出る。

 

 

夜空の端から端までまたたく星々。日本でも空が澄んでいればオリオン座は確認できるだろう。そんな比じゃない。しっかり星が空に散らばっている。そして赤みがかった綺麗なお月さま。永遠に続けばいいのに。

 

そろそろ夕飯できるから入るぞい。お父さんが手を洗って家に入っていく。そうか。この景色も慣れてしまえば特別ではなくなるのか。たまに見るからこそいいものなのかもしれない。地元の価値はアウトサイダーの方が詳しかったりするものなのかもしれない。

 

お夕飯はお昼と同じ、葉物たっぷりカレーとご飯。ピリ辛が食欲をそそる。すごく美味しい。んだけどやっぱり量がすごいさね。夕飯前にリンゴとみかんとココナッツを食べちゃったんだからね。食べられぬ。ヤギのおやつとして献上いたしました。たんと食べていいお肉になって、お家の経済を支えてあげてください。

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夕食後、テレビを夫婦で見ている。ネパール語やらヒンディー語やらよくわからないはずだが、展開はわかるし言っていることもなんとなく想像できる。なんというかわかりやすい表情と体の動きと展開だ。昭和のドラマっぽいような。見ていてほっこりする。シリアスな展開なはずなのに。お父さん、見たいシーンに限ってトイレに行ってしまう。お母さんが大声で呼びに行く。ああ、この光景は世界共通なのか。

 

21時も過ぎ、家を閉める。就寝時間だ。今日はいろんな筋肉を使って生き延びた。卵さんのお話やら、お父さんお母さんの賑やかな掛け合いに興奮して気づいてなかったが、相当疲れたみたいだ。死と隣り合わせで、幸せな生活を送ればそうか。

 

今日もどこかで結婚式があったそう。遠くで響くネパール音楽と鍋底を叩くような楽しそうな金属音。虫の囀り。輝く星と月。

絵に描いたような世界が世の中にはあるんだなあ。指先から足先まで幸せに満たされ、眠りに落ちた。