"あれ、ペンチとかどうしたん?なんかあった?"
"あ、うん。ちょっとね。"
"どしたん?俺やろうか?"
"あ、もう大丈夫。この、この傘直してたの。"
"へー。こんなビニール傘持ってたっけ?"
"うん、持ってたよ。"
"でもわざわざビニール傘なおすなんてどうしたの?"
"え、あ、いや、昔から私ってそういうとこあるじゃん。"
"あーまあそうか。前も突然ベビーカーとか買ってきたしね。赤ちゃんいないのに。"
"そう。そうでしょ。色々私なりに考えてるからね。"
"ふうん。まあいいや。せっかく午後暇になったし、どこか行く?"
"あ、そうねぇ。お買い物出かけたい気分かな。"
"じゃあすぐ行こ。いつも行くモール。あそこでいいでしょ。"
"そうね。そうしよう。着替えるからちょっと待ってて。"
"ほーい。"
雲がギリギリ耐えている、といった天気だ。なおした傘をせっかくだから使ってみたいと、渋る妻に気づかず、男は私を持ち外に出た。
"…へえ。ずいぶんこの傘しっかりしてるのね。"
"そうね、ちょっと古いから丈夫なのにしたの。"
"そんなビニール傘大事なんだね。俺が前あげたやつはダメだった?"
"いや!全然そういうことじゃなくて!ただ暇だったからちょっと、工作みたいなものだから。"
"ふうん。よくわかんないなぁ。"
"ごめんね。"
"いやいや。やりたいことならいいんじゃないの。ただあなたってどこか掴み所がないというか。時々そういうとこあるよね。"
"…そうねぇ。"
"…。あ、ちょっとお腹空かない?甘いやつ食べたいんだけどこの店入っていいかな?"
"…あ、うん。入ろ入ろ!"
そう言うと私を見せ前の小綺麗な傘立てに入れ、店の中に消えていった。
"あかんわぁ。こんな時に雨とかほんまツイてない。ちゃんと天気予報見ぃひんからこうなんねんな。"
サラリーマンだろうか?外回りの途中で雨にやられたといったところだ。
"いま何時よ。うわ!もう12時やわ。次んとこ昼前に行っとかないとあかんよな〜。でもここコンビニないし…。どうしよどうしよ。"
独り言が賑やかな人だこと。一人暮らししてると賑やかになるって聞くし、きっとそうなんだろう。
"こういう時は仕方ないわ!うん仕方ない。助け合いだから!すんません!ちょっと借ります!"
私を引き抜き、雨の中男は走り出した。
え、ちょっとこれやばいんと違うん?奥さんやばいんちゃうの?俺ん中データあるんちゃうん。にいちゃんあかんて。助け合いとかちゃうって。