ホウチガブログ

~方向性の違いでブログ始めることになりました。~

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〈252.電流そして恍惚〉

中学の古文で習った敦盛の最期。覚えているだろうか。平家物語の一つの物語である。

 

熊谷という源氏の武将が敵将を捕まえたら、自分の子どもくらいの若いイケメンだったそうだ。助けようとするけど味方が大勢やってくるので逃がせそうにない。若武将はさっさと殺せと男らしく覚悟を決めている。

そこで熊谷は"前後不覚"になる。結局泣く泣く切ることになった。

 

私が忘れられないのは、この"前後不覚"という表現である。

あまりに気が動転すると、前と後ろの区別がつかなくなる。これ以上にわかりやすく、端的な形容の仕方はないと思う。

 

例えば。といって適正な例が思いつかない。

美しい花をこの手で握りつぶすようなものだろうか。憧れた絵画にペンキをぶっかけるようなものだろうか。

ポジティブな例で言えばなんだろう。ランキング500位の奴が1位の王者を打ち負かそうとするその瞬間だろうか。

 

まさか前と後ろがわからなくなる瞬間は生きていてあるまいと、平常運転の今は鼻で笑える。しかし当事者になった途端、まったくもってその通りだと深く頷ける。こんな美しい表現。

ため息が出る。

 

こういう表現はなかなか出会えるもんじゃない。だから大切にしたい。でも欲張りなので同じ感動を再び味わいたい。

文章表現の一番の醍醐味はこの感動だと思う。短くて、それでいて何年も心を掴んで離さない。

 

美しいコピーもそうよね。心を動かすのに、文字の量は関係ないの。むしろ短ければ短いほど美しいのかもしれない。

 

出会ったその時、僕は前後不覚に陥ったのだ。