〈327.夜の墓参り〉
実家に戻るといつものようにお墓に行くことになる。祖父祖母への近況報告と相談事は慣習になったよ。いつも夜なんだけどね。
夜の墓場っていうのは気味悪がられるんだけど、ぜひ行ってみてほしいな。
墓石ひとつひとつがもの寂しげに、静かに座っている。誰かに見られることもまずないだろう。そっとお話をすることもできる。
はたしてそこに故人が眠っているのか知らないけども、たしかに生きていたことの証拠にはなっている。不思議なもんだね。いるような気がしちゃうんだから。
墓地には百、二百を超える多くの墓石が座っている。そのひとつひとつが数年から百年近くまで、差こそあれども生きていたんだねえ。
何年後になるかはわからないけども多分僕もそのひとつになるんだろう。そして何年か経てば知らない人間が僕の墓石の前に立つことになる。もしかしたら風化して大地と同じになるのかもしれないな。
何を思って生きていたんだろう。
わたしは当然すべての墓石の下にあった命について知らないし、僕の狭い世界の中からしたらそのすべての存在した命が価値があるものとは言えない。アカの他人の、時代も違う人なんて僕の人生になんの意味も持たない。
だけどそういう僕にとっては価値のないように思える多くの命が積み重なったところで、僕は立っているんだから、価値がないなんてことはない。
命の価値とはなんぞや?
社会的影響力なのか?なんだろうな?
私の命の価値とあなたの命の価値。判断する人の尺度によって優劣があるし、そもそもそれに意味はあるのか?
よくわからないな。
価値なんていう空虚な作り出されたものより、単純に今感じるこの感情の方が、僕にとっては価値がある。
ん?わからんぞ。
とりあえず生きていることは真実だとしていいでしょう。その程度しか真に理解できるものがないな。
それならば、せめて僕の命の価値について、僕ははっきり理解できるように生きねばならないと思うのです。
鈴虫が鳴き始める時期だね。
じっくり考えるには適した時間だ。
ここんところ俺の駄文が続いているのよねぇ。
そろそろ別の風が吹いてくれないかしら。