〈433.第一部 完〉
12月5日。
この日が来た。3ヶ月前は心待ちにしていた12月5日。いまは出国直前だ。あと数分後には飛行機に乗り、30分もすれば空の彼方だろう。
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3ヶ月の反省は無事日本に着いたらするとして、なにが一番思い出深いことか考えてみた。
最後の最後で一気に決まった研究関連。これは間違いなく外せない。しかし、それは研究において、大学院生の僕としては忘れがたいけど、一人間の22歳としてはそこじゃあない気がする。そこは2番目だ。
一番はと言えば、11月の中旬に1週間滞在した港の観光地だろう。それまで日本人に頼れる環境が一応あったため、どこか逃げる余裕を持って生活をしていたと思う。
でもそのたった1週間だけど、友達もいない、日本人もいない、英語を喋る人もほぼ皆無の環境はとんでもなく刺激的だった。
会話ができないことがこんなにも苦しいのか。初めて味わった苦痛だった。
そこで決定的に勇気を与えてくれたのは、スマホのゲームだった。いや、正確には現実逃避から始めたゲーム、そしてそれを第三者的に遠くから見つめてみた時間だろう。
ゲームと無の時間。そこからはじまった。
将来の方向性が決まった。研究の方向性すら指し示してくれた。孤独で苦しい時に、自分を見つめ直す機会をくれたのは、7畳くらいの狭い部屋とそれの外を覆い尽くす理解不可の環境、そしてスマートフォンだった。
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もちろん、それだけじゃあない。その不安を聞いてくれた友達とか電話越しの声、適当にいじりながらちゃんと向き合ってくれる先輩。結局背中を押してくれたのは血が通った会話だとも。それがなけりゃ、自己認知が進んだだけで現実ではなにも変わらなかった。
僕に必要なのは孤独と人間なんだ。
感謝してもしきれない。
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さて。この3ヶ月どうだったろう。
しんどいさ。苦しいさ。むなしいさ。さみしいさ。
でも、悪くなかったかもな。
家に着くまでが遠足。油断せず帰ろう。