12月6日。
コント番組で時々見る設定。
飛行機の中で女性のキャビンアテンダントが言う。「お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか?!」
生で見てしまった。
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英語、フランス語、トルコ語でそれぞれ機内放送が入る。「お客様の中で医療ができる方がいれば、名乗り出てください。」やはりリアルだと落ち着いた声だった。僕も一回目の放送ではデッドプール2に夢中で気付かなかったほどだ。
二回目の放送で、前の方で電気がチラチラとしている。その席あたりで女性の体調が悪くなったようだ。
デッドプールの粋な発言も耳に入らなくなる。これはどうしたものか。僕がなにかできることはないだろうか。
不安に思うも、ただ見つめることしかできない。こういう時に凡人ができるのは慌てず騒がず通常運転をするだけだ。くそう。私は無力だ。片手でおさまるくらいしかしたことがない、手を合わせて神頼みをする。ひたすら念ずるだけしかできない。
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ふと、隣の席の東アジアの男性が立ち上がる。ツカツカとあかりがチラつく席に向かって行った。
おや。野次馬にしてはなにか覚悟が決まった足取りだ。これはもしや。
30分後くらいだろうか。彼が帰ってくる。キャビンアテンダントに綺麗な英語で何か指示をすると隣の席に腰を下ろした。
"あなたは医者だったんですか。"
「いや、僕は医者ではないです。ちょっとメディカルトレーニングを積んでいたのでできることはあったので。」
"すばらしいです。それで彼女は良くなったのですか。"
「はい。大丈夫そうですよ。特に問題はなさそうです。」
隣の席が救世主になった。他にも何人か集まっていたようなので、医術の心得がある人が複数人乗客にいたらしい。
あぁ。なんともまあかっこいいことだろう!
僕があと10歳若ければ医者を目指したエピソードになったことだろう。
いま僕ができることであれば、彼のような人がいることを伝えることだろう。
いざというとき、何か助けられる心得があるのは安心材料になる。そして自分だけじゃなくて周りの人を助けられる。自分の無力さに打ちひしがれる必要がなくなる。
家庭の医学くらいは身につけておこうかしら。帰国したらまず本屋に向かおう。
いまはトルコなので。