この前親知らずを抜いた。
よく聞く通り、痛い。痛いっていうのはいろいろあるんだろう。その中の陰湿なやつだ。ボキッと痛いなら一瞬の爆発的痛みを超えればそれを超えることはない。我慢すればいい。
しかしだ、この親知らずの痛みというのは耐えようと思えば耐えれる。一瞬一瞬をとれば痛みさえないという判断すらくだせる程度。内ほっぺをゆるく引っ張られてるみたいな。
しかしだ、それが永続するのだ。弱いが故に慣れても気になり続ける。非常に嫌われるタイプの奴。俺も嫌いだよ!
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親知らずっていうのは親が知らないうちに生えるとかいうじゃない。幼児の頃とか少年少女のころは親の目の見えるところで成長するもの。歯の生え変わりも親は周知してるし、虫歯がどうとかも親は大抵知ってるものだ。だがしかし、親知らずが生えるのは、親が子の口内環境に干渉しなくなったからだ。故に親知らずとかいうんじゃなかったっけ。
当然、僕の両親も僕の親知らずの存在を知らない。わざわざ報告しないだろう。そしてその親知らずが、両親の知らぬ間に抜かれた。
つまり、僕の親知らずは両親の知らぬ間になかったことになった。闇に葬られたのだ。
親は知らないのだ。僕の全てのことは。
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今日のバイトは暇だった。親知らずの後の空洞が放つ痛みと虚無の時間を持て余していた。そのため特に注意を払うでもなく壁にあった紙を見た。
青少年の正しい成長のために〜、みたいなことが書かれている。項目分けされてA4によくわからないイラスト付きで書かれている。たぶん警察からの連絡の紙がまわってきたのだろう。
有害雑誌の販売をしないように、うんぬんかんぬん。
有害雑誌とな。
これが引っかかった。
なんだいそれは?害がある雑誌っていうのはどういう定義なんだい?
雑誌コーナーに行ってみよう。青少年の育成に害を有する雑誌とは。
漫画がそうだな。勇敢な主人公が悪に立ち向かう暴力シーンがあるぞ。麻雀もそうだ。頭を駆使する賭け事の世界に一歩近づくもんな。ファッション雑誌も害はあるぞ。男女問わず大人の魅力がある服装もあるもんな。旅の雑誌も危ないな。未成年が無責任に家出して広い世界を知ってしまうかもしれないな。成人向け雑誌もそうだ。異性の体なんか知らない方がいいな。学校で扱う中途半端で端折られがちな知識の方がよっぽど役立つもんな。
コンビニの雑誌コーナーは非常に危険だな。青少年は近づいちゃいけねぇよ。
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親は確かにこどもを守るのが役目だと思う。守り方はひとそれぞれなんだろうけどもね。
しかしだ。親知らずなことが多くあることも知らない。中学の休み時間にどんなY談が繰り広げられているか、高校の近くの本屋でこそこそちらちらする奴がどれほどいるか。
そうやって大人の世界を知ることもあるんだぞ。それを知らなかったらどうなるか。
無知こそ1番の危険だぞ。
そのすべてを大人が管理しようなんてするべきじゃねえしできるもんじゃない。
諦めろ。認めろ。諦観だ諦観。
有害な雑誌を出してるのは誰だ。僕ら大人じゃないか。
ほどほどにしやがれってんだ。