ホウチガブログ

~方向性の違いでブログ始めることになりました。~

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共同企画【交換小説】結 だいち編

「...そう決まってるんだ」

頭の中で繰り返されるこの言葉は陽炎のようにばんやりとそして少しの間ゆらいでいた。

とたんに、男は瞼の奥のまぶしさに気づいた。
まだ意識が定かではないのだろう。
狭窄した視界から徐々に光を取り戻し始めた男は、遠くから騒がしく聞こえる雑踏と甲高い女の声を耳にしていた。

ホームのベンチで男はしばらく眠っていたのだった。
薄汚れた白いプラスチックの一人掛けのベンチに彼のふてぶてしい態度と風体はよく似合っていた。


「1番乗り場に貝塚行き電車が参ります。」


男は、まだ靄がかかった頭でこのアナウンスがさっきの甲高い女の声であることを確かめ、そして期待と違ったことにおもわず立ち上がりうろたえた。


「姐さん?」


男の記憶は断片的だった。
しかし、鮮明に覚えているのは姐さんと慕っていた女子高生と謎の二人組、そしてどこかへ消えた駅員だ。


「俺は姐さんを追いかけて車に乗るはずだっただろうがヨォ!!」

咆哮した男はそのとき、後頭部の鈍い痛みに気づいた。

「イテェ・・・なんなんだよ、まったくよォ」
後頭部に手をやり、あたりをきょろきょろすると他に外傷はないか体のあちこちを触っている。
だが、特にケガはないようだ。


「・・・・・・・・・・あのぉ~」
突然、後ろから声がした。

「すみません、先ほどから他のお客様のご迷惑になっておりますので・・・・
ご配慮のほうをお願い致します・・・」


「・・・ああん??」

急に話しかけられたその言葉が癪に障り、振り返った男はおもわず後ずさりした。
そこには、先刻電車と衝突して消えた駅員が立っていたのである。


「なっ・・・・・」

またもやうろたえる男を尻目に駅員は一礼するとクルッと踵を返し、急ぐように消えていった。


しばらく時間が経っただろうか。
呆然としていた男は、ベンチにドカッと座り、けらけら笑い始めた。

「そうか、わりぃ夢をみていたんだな、そうだよな」


男はそうしてしばらくしてホームを去った。


結局、男は淡がかかった駅員の帽子に気づくことはなかった。

こうして新たな影のヒーローが誕生したのだった。