いつもの茶碗の端がかけた。
普段の使いのクリーム色の陶器。6年くらい前にもらった。特別感情もない、日常。
そういや、となりのおじちゃんからもらったものだった。
端がかけてようやく日常から抜け出てきた。
。
端がかけたら隣の家に電話する。
「それなら新しいの作るから、今度取り来なね。」
記憶があるより前からいるおじちゃん。隣の家には陶器を焼く窯もあった。
端がかけたこいつをもらったのは、おじちゃんが亡くなったときだった。遺品整理してて貰い手がいなかった。せっかくなら。
。
故人のことをふとしたときに思い出す。
日常に溶け込んだ中にいる思い出。
午後の紅茶だって。隣の家に遊びに行くと必ず用意してくれていた。
抹茶が好きになったのも。ぼくがでっかいランドセルを背負ってころ、おじちゃんの陶器で点ててくれたのがおいしかったから。苦くて苦くて。大人になった気がした。
さびしい。
仕方ないんだけどね。
もう、次の陶器をつくってくれることはない。
。
宿題をすれば真面目なひとになる。試合で勝てば立派ひとになる。合格すれば優れたひとになる。
なんでそんなに褒めてくれたの。
おじちゃんみたいになりたいから、ぼくははやく歳をとりたいのに。
。
まだなんにもできてない。
おじちゃんはあんなにほめてくれたのに。
せめて期待に応えるくらいはしたいのに。
なんでこんなに難しいの。
こんなぼくを見てもおじちゃんはほめてくれるの。
ほめてほしいよ。
ちょっとくらい。