1月10日。
バイト先の最寄り駅にケーキ屋さんがある。
ケーキが食べたくなったとき、ちょっとお祝いごとがあったとき、労をねぎらいたいとき。
ちょろっと寄って、一つ二つ買って帰ることがごくたまにある。
バイト先の最寄り駅なら今後も使うだろうということで、ポイントカードを作ってもらっていた。
年明けケーキ食べてないし、食べたくなったので久しぶりに買うことにした。
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ケーキ屋さんはいつ行ってもわくわくするねえ。
ショートケーキ、モンブラン、フルーツケーキにプリン。ことごとくキラキラしていて、どれもそれぞれの甘さがあるだろう。
ちょっと迷ってるくらいが楽しいけども、バイト終わりだから閉店時間も近い。エプロンを着たおばちゃんに申し訳ない。とはいえなあ。
毎度のことながら、迷いたいけど迷いたくないけど迷ってしまう。そういうちょっとキョドキョドしてガラスケースを眺める私服の男がいるわけです。
「いまならアラカルトでシュークリームをお付けしますよ。」
見かねておばちゃんが声をかけてくれた。優柔不断男にはベストなチョイスかもしれない。
お店側のおすすめケーキを3つ安くセットにしてくれる。しかもシュークリーム付けてくれるとな。
そうなんですねじゃあそれでお願いします、とまだキョドり具合が残ったまま早口にお願いしてしまった。
「おうちまでどれくらいですか?」
1時間ちょっとですかねえと答える。ここらへんでわざわざこっちまで来てる人だと思ってくれたのだろうな。
そのあと会計のために財布をもぞもぞとさせる。
ポイントカードを出して、お金を出してそわそわと包んでくれるのを待つ。
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「ポイントカードですね。いつもありがとうございます。」
ここで、この店に定期的に来る奴だと察してくれたのだろう。そのあと奥でちょっともぞもぞやっていた。
お会計が終わって袋に入れたケーキを渡してくれた。
「お疲れ様です。いつもありがとうございます。」
この時間にやってくる、定期的にやってくる奴、ということで仕事終わりのやつだと察してくれたのだろう。
この「お疲れ様です」というのがこれまでで一番体に沁みた。
僕を個人として認識してくれることもうれしいし、色んな背景を想定して適切な言葉を選んでくれたのがとてもうれしい。
この心遣いはなかなか最高だった。
「シュークリーム入れときました」
そういって袋を渡してくれた。アラカルトで3つケーキ、おまけで1つのシュークリーム、そしてついでにシュークリームのトータル5つも入れてくれた。
閉店間際だったから、売れ残ったケーキを入れてくれたのだろう。
もうそれもすべていい。うれしい。わざわざ買ってくれた仕事終わりのあんちゃんをねぎらってくれるおばちゃんがすごくうれしかった。
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ケーキは特別おいしいわけでもない。いわゆるまちのケーキ屋さんである。
コンビニケーキよりも間違いなくおいしい。かといって超高価なわけでもない。
これくらいのお手軽感のあるケーキが好きだ。そしておばちゃんの優しさが好きだ。
なんか一日良かったかもしれない。それくらい、相手を考えてあげた末の言葉と行動は優しいもんだ。
賢さは優しさっていうことだろうな。