「働く」ってなんだ~岡島編~
〈はじまり〉
高卒で働く人と比べたら、実に7年遅れでの社会進出である。院卒の十文字はやや不安を抱えている。
アルバイトをしているけども、拘束時間はまったく別物だ。
正社員は朝から夕方まで働く。一日の大半をそこで占められると、人間関係もそこに偏ってくる。
つまり、働き始めるとそこに人生の大半をささげることになるように思われる。
そもそも、働くって、どういうものなんだろうか。
一回きりの人生の、大半をささげるほど価値のあるヤツなんだろうか。
せっかく社会人の先輩たちが近くにいるんだぜ?聞いてみるしかないじゃないか。
初回は一人暮らしで暇そうにしていた、岡島に聞いた。いつもの通り敬意も親しみも込めて「岡島」と呼ばせてもらうことにする。
〈インタビュー開始〉
-すぐに反応をよこしてくれた岡島からです。
-相変わらず暇なのね。
暇じゃないわ。資格の勉強が終わって、たまたま時間ができただけですぅ。
-ひとり暮らしでさみしいもんな。
ひとり暮らし超楽しいで。ホンマ。夕飯の献立とか考えなくて済むしな。
-はい。そしたら最初に、仕事の概要を改めて教えてください。
はい。某建築会社の設計担当やね。
営業の人が持ってきた内容から、設計してプレゼンしたり、図面を作ったりしてる。
-岡島は建築学科・修士を卒業しての建築会社だけど、仕事内容は学生のころから同じ?
いや、その時は詳細まで詰めなかったし、多少現実的じゃなくてもよかった。デザイン重視だったかな。今は、コストとか耐震とか、そういう細かいところまでちゃんと考えるな。
///仕事と趣味と
-じゃあ学生の頃のほうが楽しかったってわけか。
そうでもなくて、確かにやることは違うけど、それ以上に人間関係が良い。だから学生に戻りたいとは全く思わんね。
-へえ。そういうもんなのか。仕事内容自体は楽しい?
まあ楽しいは楽しいで。
-じゃあ、人生やり直しても建築はする?
うーん。それは違うかも。大学の時の大会運営(※1)が楽しかったからなぁ。あれ経験してからは、舞台とかの演出とか、装置作りの方向に進むかも。
-あれはたのしかったわね。となると、本当はデザインをやりたいってこと?
デザインをやってみたいはやってみたいけど、あくまで仕事は仕事でちゃんとやりたいね。
-ふうん。じゃあ大金が入って仕事辞めてもいいってなったらどうするよ?
仕事は続けるな。スキル得られるし、やっぱりちゃんと一人前にはなりたいから。
///働くことの目的
-そいつは意外。そんなに今の会社が良いポイントってなんなのよ。
やっぱり海外で仕事できることじゃない?
5年とか10年とかで、海外に行けるチャンスがあるのはいいね。
-海外?
海外やね。
インドネシアでスラム近くでモールを建設して、それ以来雇用が生まれたりとかで、地域の生活水準が上がるようなことがあってんな。
そういう人の役に立つようなこと、やってみたいよなぁ。
-へえ。それっぽいこと言ってるけど、実際はデザインやりたいんじゃないの?
デザインでも建築でも、最終的には「人のため」だから。自分の欲望の表現だけだと失敗するもんやね。伝わらないし、良いものじゃない。
お客さんに喜んでもらうのがデザインであって。建築だって、何が楽しいって、お客さんが使ってくれて喜んでいることだからね。
-デザインがやりたいこと、建築は今やること。
-となると、何のために建築の仕事をしている?何のために働いてるんだい?
趣味です。趣味のための金稼ぎですよ。バスケの応援とかそういうためだね。
あとは、さっきも言ったけど、スキルを伸ばしたいし、いろいろ経験がしたいからね。
学生の時(※2)から、メインのやりたいこと以外の仕事も任されたりした中でいろんなことができるようになったからね。無駄なことはあらへんね。
※1・2
十文字と岡島は同じ大学のサークルに所属していた。そこで英語のスピーチ大会の運営をし、岡島は舞台演出や動画作成など、パソコンを使う仕事をほぼすべて担当した。
///やりたいことと生きること
-バスケの応援って、将来的にはチーム買いたいとかあったりするんかい?
うーん。そこもないわけじゃあないかもしれんけど。そうじゃなくて、デザインで貢献してみたいな。ロゴとかもそうだし、試合前の演出とか、曲とかもそうかも。
-やっぱりデザインなんだな。
そうね。使ってもらったり、楽しんでもらって、それが楽しいからね。
自分のために、人を満足させるってことやね。主役はあくまで自分だけどな。
-ふぅん。
-これやりきったら死んでもいいなあって思うポイントはある?
ない。長生きしたい。
-ほんとに?
ほんとに。色々したいもん。後悔のない人生で死にたいもん。
-今死んだら後悔する?
後悔するというか、建築もまだ一人前じゃないし、デザインも色々やりたいし、作曲とかもちゃんとやりたいし。まだ死ぬわけにはいかんね。
-岡島っぽいね。
///お言葉頂戴
-最後に新卒入社の人、具体的にいえば私、十文字に言葉をください。
先輩に言われたのは、3年間はしっかり頑張れってことだった。採用してくれた恩も返さなきゃだし、働くことがどんなことかを理解するためにも。
それのためにも、とにかく人に好かれようとすることやね。仕事は長期間の人間関係だから、仲いいことに越したことないよ。溶け込むことです。
それと、若い時は自分のために時間を使うことやね。
-3年ね。とりあえず働いてみないとわからないことばかりだ。ありがとうございました。
あざましたー。次はハラミキやね。最近どうなんだろう。元気ならいいけどな。
〈働くって。〉
働くということを考えることは、生きることを考えることでしょう。
岡島は、あくまで「自分のために他人を満足させる」という信念のもと仕事をしているらしい。
そして同時に、趣味のための仕事であり、お金のための仕事である。
でもやっぱり、仕事だってかなり好きなんだな。
仕事の建築も、やりたいデザインのことも、きちんと人の役に立たせたい。そして自分の成長のために時間を使いたい。
学生のころから相変わらず、軸のぶれない男である。
岡島は人の気持ちがよくわかんねえ奴だと思っていた。しかしながら仕事を任せると確実に、期待以上のものを見せてくれた。
そこにはあくまで「他人のためが自分のため」という筋が通っていたということを今更になって知ることになった。
働くってなんだ。
岡島の回答は「働くも趣味も、すべて自分のためだぞ」といったところか。それが同時に「他人のため」というのが含意されているのを忘れちゃいけないところさね。
働き始める前に、自分が生きることの理由とか目的とか、自分なりに持っておくと良さげだ。
次はハラミキ。
彼女はちょっと変人であると同時に良心の塊でもあるように思える。
どんなことを思って働いているんだろうか。
きっと楽しい話が聞けるに違いない。