交換小説 みっきー編【承】でございます。
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気づけば反対側のホームにいた。
客はまばらで、ホームの端から端まで誰がいるか見渡せる。
スーツを着たビジネスマンは腕時計をちらちら見ながら電話している。
あの人は好きなことを仕事にしているのかな。
お洒落した女の人は友達と楽しそうに会話している。
あの人は、楽しい人生を歩んでいるのかな。
ホームの端のヤンキーたちは駅員と喧嘩している。
あの人たちは、一般人と喧嘩して何が楽しいんだろう。
そういえば、好きなことが無い私に唯一興味があることがあった。ヤンキー。
金持ちの医者の家に育った、高学歴の私にとってヤンキーはかけ離れた存在だった。
それ故に興味を持っていた。
そんな時だった、ホームの端にいたヤンキーがメンチを切りながらいきなりこちらへ向かってくた。
周囲には私以外誰もいない。
明らかに私にメンチを切っている。
私はとっさに近づいてきたヤンキーを線路に投げ飛ばした。体が勝手に動いた。
まあ、黒帯の私にとってはヒョロヒョロのヤンキーなど、いとも簡単にやっつけられる。
橋本環奈までとは言わなくても、仲間由紀恵と有村架純とムロツヨシを足した顔と言われていた可愛い私は、スカウトやナンパに声をかけられることが多かったため、護身術として柔道を習っていた。
線路に投げ飛ばされたヤンキーは、いきなりこんな可愛い女の子に投げ飛ばされるとは思ってもいなかったようで唖然としている。
そこで、締めの一言をヤンキーに浴びせた。
「おのれ、いちびってたらいてまうぞコラァ!」
決まった。
ホームにドスのきいた声が響き渡った。
言っちゃった。ヤンキーに興味を持った時にそれとなく読んだ下妻物語に載っていた桃子の決めゼリフ。
今まで使ったことはなかったが、大阪の西成出身の両親の元に育った私にとって、ニュアンスや使い方は教わっていた。
ホームに響き渡った声に完全に怯んだヤンキーは、生まれたての子鹿のように足をガクガクさせながらホームをよじ登ろうとした。
私はとっさにヤンキーがホームにかけた手を靴の角で踏みつけた。
何か音がしたが、気にしないでおこう。
そんな様子を見た駅員が、仲裁にやってきた。
「2人とも危ないですよ!ホームでそんなことはやめてくだ…」
私はとっさに近づいてきた駅員も線路に投げ飛ばしていた。そして決めゼリフ。
「おのれ、いちびってたらいてまうぞコラァ!」
(これしか言えない。他の言葉も勉強しなきゃ。)
駅員を投げ飛ばした瞬間、私は気づいた。
私、ヤンキー向いてる。
ヤンキーやってみよ。
そして、建築作業員の男と10代で結婚して、子供3人ぐらい産んで、フロントガラスにいっぱいヒラヒラのついた黒い軽のワゴン乗って、40代で孫の顔を見るんだ。
決心した私は、線路にいる投げ飛ばしたヤンキーに向かってこう叫んだ。
「おのれ、うちをヤンキーの仲間に入れんかいコラァ!」
2つ目の決めゼリフ言えた。
(やっぱり高学歴の頭の回転の速い私は応用がきくなぁ。これで可愛くて、ヤンキーってギャップ萌えするな。)
線路のヤンキーはキョトンとしていたが、私に向かってこう言った。
「俺の弟子なんて…むしろ、俺をアネゴの弟子にしてください!」
やばい、これは想定外
「いや、私はまだヤンキーではなくて…」
「そんなの関係ねえよ、アネゴ強いっす。一緒に福岡の天下とりましょう」
福岡の天下
悪くない響き
その言葉に動かされた私は決めた。
「よしいいだろう、じゃあ私について来い」
ついさっきまで可愛い高学歴のお嬢様だった女の子がヤンキーになってしまった。しかも、弟子付きで。
この後、どうしていいのかもわからないまま線路のヤンキーをホームに引っ張り上げ、駅員にはタンを吐いておいた。
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交換小説みっきー編 【承】完