〈86.Thanks for you.〉
クリスマスイブ。皆さんはどうお過ごしでしょうか。
私は。
大学1年生。はじめての英語の授業。友達なんているわけない。まわりの奴はすでに仲間を作り出していやがる。ひとりぼっち。だが少人数制のクラスは喋らなくてはならない。いやーな雰囲気だ。
授業が始まり、近くの4人で英語で自己紹介をすることになった。ぼっちの僕の周りに座っている人もまたぼっちなのだ。これならまだ気が楽だ。試しに喋ってみた。まあ似たような奴だ。大して喋らない。その場しのぎに変わりない。
次の週、チラシをもらった英語研究会のお花見に行くことにした。待ち合わせの駅でそわそわ。知ってる先輩いないですやん。おれはどこで待てばいいんだよ。おや?あの顔は見たことあるな。あぁ、英語のクラスで喋った人だ。名前はなんだっけなあ…。
それから気づけば4年が経とうとしている。今では彼の家によく泊まりに行くし、スマブラやったり飲んだりする仲だ。そいつは、そうだな長野県から来た奴だから長野君としておこう。長野とはしょっちゅう絡んだ。おそらく大学で一番の仲なんだろう。
そんな彼とも、今日でお別れだ。来年になってすぐ、仕事先の東京に住む。年末をいいことに長野に帰るのだ。今日はそいつの家に行って引っ越しの準備の邪魔をしてきた。
彼はよくわかんない奴だ。突然覚醒したり、アホになったり、馬鹿になったり、天才になったり。今日はアホだった。引っ越しが明後日なのにダンボールに何も入っていない。慌てていたが、それを横目に僕がゲームキューブを起動させると一緒に2時間大乱闘をしていた。
さすがに1時をまわり、帰り支度をした。すると急に恋しくなるのだ。きっとこの彼の部屋に来ることは未来永劫ないだろう。そして、同じ学部、同じゼミの親友として会うこともない。次に会うときはどちらかがホスト、どちらかがゲストの関係になるのだ。
僕がポツリと思い出を話すと、アホモードだった彼もしばらく会わなくなることを思い出したらしい。急に湿っぽい空気になった。
"明日は引っ越しの準備しないとだから昼飯だけ一緒に食えるかな。"
そうか、それならいいんだ。
別れっていうのはさみしいもんだ。来ることはわかっていたが、考えないよう、遠回りするようにしてしまった。いざ目の前にするとどうしたらいいかわからなくなる。
俺の場合、Tの記憶(22参照)も蘇ってきてしまう。これが最後の彼の顔なのかもなあ。
どんな別れであっても必ず後悔はするだろう。ただ、後悔のあと、まいいやって思えるか、ベッドで一緒に寝る後悔なのか。これがまたでかい。
後悔が残るとしたら。
照れくさいし、クッセェけどちゃんと感謝することが今の僕には必要なのだろう。彼が死ぬなんて微塵も思わないが、とりあえずちゃんと挨拶をして、握手することだ。
1年生の冬。
大学生になれば彼女はいくらでもできる、なんて言ったあの先輩はどこにいきやがった。ちきしょう。部屋で一人でカップ麺でも食って寝るか。
"どうせ一人だろ。せっかくだし京都行ってみようや"
しょうがない。俺はあんまし行きたくないけど、あいつが誘ったんだから断るのは悪いことだ。ぼっち同士、さみしいクリスマスの傷の舐め合いでもしてやるか。
私は。
きっとまた彼と、退屈なクリスマスイブになるんだろう。