〈106.これでいいのか症候群〉

1日ずっと寝ていたおかげでかなり風邪もマシになった。風邪だから仕方ないんだけど、やっぱり家で時間があると暇なのだ。

そりゃあ本を読んだり、ゲームをしたり、なんだかんだで夜にはなるのだが、なんかぼやっと1日終わっちゃったなあと、このままでいいのか症候群が発症しはじめるのだ。

いつもだったらここで、お外にランニングに行って、このままでいいのか症候群をおさめるのだが、風邪をひいている今はそんなことができない。大人しくベッドで丸くなるしかない。

じゃあどうしようか。

いつもの妄想族としての血が騒ぐ。今日は未来に行って、いろんな人にあいさつをしてみよう。近すぎるとリアリティがあって怖いから、思い切って50年後にしよう。

僕は71歳。生きているのか怪しいなあ。世界は2069年。そろそろ移動時間がほぼかからなくなる時代じゃないか？リニアモーターカーやら全自動自動車やらが実用化されて数年経っているころだ。

きっと孫ができているだろう。いや、できていてほしいな。生まれたばかりだろうか。どんな元気な子だろうか。自分の娘・息子も立派な大人として独り立ちしてから数年。なんだか寂しいような嬉しいような、今の僕にはわからない気持ちだろうか。

そうなると、そろそろ自分の最期を考えなくちゃならない。あんまり費用をかけてもしょうがない。できれば海にでもほんなげて欲しいところだが、違法行為なんだろう。じゃあ宇宙の塵にしてくれや。いや、どうせだったら使える臓器を提供しようか。2069年はそんなもの必要ないか。きっとなんちゃら細胞が臓器の１つや２つ簡単に作れるんだろう。

そうか。身の回りの不便はどんどんなくなるんだな。移動時間を余計に考える必要もないし、怪我した時の心配もいらない。なんでもできるようになっていくんだな。

だとしても、たぶんずっと解明できないものがある気がするんだ。たぶん、心っていうのは科学だと100%にはできないんじゃないかな。分析している途中で変わっちゃうし、正解な気がするだけで、全部が全部言葉にできるとは思えないな。

そうなってくると、やっぱり人と話す、っていう行為だけは省略できないんだろう。自分の心も相手に話して、反応をもらってそれでようやく形になって見えてくるんだな。

やっぱり人間は社会的動物じゃないか。なんだ結論はとうの昔から出ているじゃないか。

となると、今日みたいに部屋にこもって、誰とも話さずに1日を終えるのが寂しいんだな。それがこれでいいのか症候群の原因なのかもしれない。

うーん。久しぶりに家族に電話でもするか。