〈447.不思議な木曜日〉
12月19日。
忘れたくない日が時々ある。
めちゃめちゃ悔しかった日、めちゃめちゃ嬉しかった日、なにか結果を得た日。
特別な日っていうのは忘れたくないと思うだろう。
でも、特別なんだけど、特別ではない。ちょっとだけ凡じゃない日っていうのも忘れなくない日になったりもするわけです。
。
学部時代、頻繁に会っていた奴が京都にやってきた。卒業ぶりとはいえ、ほぼ毎日会っていた仲だったから、久しぶりにあってもそれほど特別感はない。
"ああ、またお前か。"
しかしながら朝6時前に到着されたら俺の寝る時間はどこにあるってんだ。
"せっかく久しぶりに関西来たからさ、なんかおもしろいところ開拓したいな。"
僕が一睡もしていない状況は完全無視して、奴は鞍馬山に行くことを提案してくる。
鞍馬山っていうのは叡山電鉄の終点でして、文字の通り標高が高いのです。近くに貴船神社があってそこそこ有名な観光地。
鞍馬山自体も天狗の伝説で有名なのです。
源義経が牛若丸時代に修行した場所が鞍馬山だとか。天狗に色々教えてもらったらしい。
牛若丸が背比べした岩、みたいな義経の聖地はところどころにあった。
修行の場所。完全に山でございます。徹夜明けで行くような場所じゃない。案の定、息は絶え絶え、足はガクガク、頭はグラグラ。
しかし、ちょうど僕の中の義経さん熱が高まっていた時期にたまたまそういう場所に行けたっていうのはちょっと忘れられないわけです。
"おい!抹茶パフェ食いてぇな!"
もう家に帰ってゆっくり横になりたい僕が奴には見えてないんだろうか。カフェでパフェを食う羽目になった。
登山後にパフェか。もっとこう、肉を食べたいわけだが。
。
夜。我々の母校で講演会があることを知っていた。奴に振り回されてばかりなのは悔しいのでその講演会に無理やり連れて行った。
その人は文章家であり、最近話題になっている本の著者だ。僕はファンであり、まさか母校に来る日があるなんて思ってなかった。
やっぱり話も面白い。やりたい放題の1時間半。しかし、ちゃんと聴衆の聞きたいところを捉え、真面目な話題をベースにしつつ、それでいて彼が話したいような、ギャグとかシャレとかをぼんぼん入れてくる。
大学での講演ってことで、学生が学びたいこと、彼自身が持つ特異性(文章家)、飽きないようにネタ仕込み。ここらへんの下準備。すごいっす。
そんでもって、短い質疑応答の時間で、なんとか質問をぶつけることができた。
大衆対個人の関係だけど、ちょっと会話ができた。
忘れたくない。
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"家について3分で寝てたな。"
そりゃあこんだけコンテンツたっぷりなら疲労もすごいことになってるわよ。
感情のタカブリはそれほどなかったけど、飽きの来ない24時間だった。
こういう日は忘れたくないし、忘れようにも忘れないんだろう。