〈554.外に立つ、ひとり。〉
えと、いままさにそうなんですが、オートロックの中に鍵を置いてきてしまい、家に帰れない状態なのです。
ことのはじまりは昨晩でした。
不要不急な外出を控えていたら、飲み物がなくなりまして。それで夜の23時ごろにスーパーに出かけることにしました。微炭酸の飲み物を二つ。エコバックに入れて家を目指しました。
すると、いつも鍵を入れている上着のポッケがどうも軽い。金属がぶつかりあう音、チャリンチャリンとそれが鳴らない。
アパートの玄関の前でポッケというポッケを探すけど、どうもない。そして鍵を閉めた記憶もどうもない。これはやったぞ。ようやくそこで気がついたわけです。
夜の23時過ぎでした。
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とりあえずネットで調べました。至急の場合は連絡したほうがいいとの知恵袋の回答。しかし至急じゃない。
そういうときは完全にアウトだけど誰かが出てくるのを待てと。
こちらを選択しました。夜の23時。不要不急の外出を避ける時期に。希望は薄でした。
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24時過ぎた頃。案の定中には入れず。さすがに寒さの限界でした。
誰一人外に出る様子はなし。仕方ない。私は研究室へ向かうことにしました。
向かう途中、ようやく気づきました。
研究室の鍵も一緒に部屋の中にいると。暖かい部屋の中で主人の帰りを待っている。しかしその主人が入ってくることはない。君たちがいなければ主人は中に入れないのだよ。
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そのとき親しくて、仮にでも許してくれる人を頭の中で検索しました。当たったのは2人。うち一人は京都にいませんでした。もう一人の方にとりあえず電話をかけました。
もう布団の中だというので、事情を説明したところ中に入れてくれました。優しい人だ。
そこで一晩明かす場所を見つけることができました。24時30分。
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そうしていま、翌日の朝9時。
本来ならばまだ布団の中で夢の中のはずです。しかし人生はそううまく立ち行かない。私は再度寒い朝の京都で、自動販売機の前でしばらく立ち尽くすことにしました。
あと何分後に扉は開かれることでしょう。
いや、開かれない方がいいんだと思う。それが今の時期にあるべき姿だよ。しかしだね、寒いんだ。
ぼくと同じように喉の渇きを覚えて外に出てくれないか。