〈130.僕を見つめる暗闇〉
僕は大学4年生になり、すごく充実した日々を過ごさせていただいていた。やりたいことも見つかり、そのためにすぐに結果は出ないけど全力で楽しんでいた。
なはずなのに、いつもどこかで暗闇の深淵が近くにある。まるで常に綱渡りしているみたいに。
その暗闇の正体は掴めず、ずっとよく見えない不安と過ごしていた。
その闇の正体が、地元の友人との夕食でわかった。
"自分らしさを失う"
ということだった。
少しくさいことを言えば、僕はそれまで自分らしさを失う、というより持っていても気づいていなかった。暗闇の中でうごめく独りだった。
ただ最近になり、自分らしさ、と言うべきなのだろうか?そういう概念と仲良くなり、気づけば綱の上に立つことができた。明るい世界だ。
ただ、いつでも僕は暗闇に落ちることもできる。むしろ楽できるのだ。
嘘で自分を塗り固めることも、したくないことをして安定を取ることも、したいことは後回しにすることも。
いっちゃえば、普通の凡人になることはいつだってできる。我慢すればいいだけなのだ。
ただ、一度綱の上の景色を知ると、そういう闇には溶け込むことが恐怖なのだ。でも楽をすればいつでもそこに落ちて溶けることもできる。
生きる恐怖の理由がわかった。
となると、恐怖にラベリングをすることができたのだ。対抗策を打つことができる。
ありのままでいればいいのだ。楽をせず自分を自分でいればいいのだ。
でも深淵はいつも僕を見つめている。いつこの身を委ねても沼に溶けるように受け止めてくれるのだろう。二度と這い上がれないまでに。
自分のありのまま、というのはすごく勇気のいることだ。ただそれが気持ちのいいことだと僕は知ってしまったのだ。