〈428.喜びの日〉
11月30日。
高校生ぐらいからお酒には憧れていた。なにに憧れたかっていわれたらよくわからないんだけども、大人への憧れと同じだよ。
「お酒が飲める=大人である=今の自分なんかより素晴らしい人間になっている」
僕にとってのお酒への憧れはこういうことだろうな。
実際は酒が飲めても素晴らしい大人になんてなれてませんけども。
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お酒憧れから酒場にも憧れはあった。とはいえ二十歳過ぎても酒場に行くのは稀で、若干の恐怖を感じていた。1人で行ったら手持ち無沙汰になるとか、ぼったくられたらどうしようとか。日本でもあんまり行かないのに、外国の、ましてやアフリカ大陸の酒場になんて行くわけなかろうて。
とか思ってた時期もありました。とはいえ酒が目的ではなく、酒場に現れる人間を目的にしていたんだけども。
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いざ酒場に入ったら、不慣れなことを悟られないよう慣れてる風を装う。特になにを言うもなくカウンターに着き、とりあえずビール。
呼吸が安定してないのは緊張してるからだよ!
とまあ一生懸命に慣れてる外国人として、人を待ちながらちびちび酒を飲んでいたら、隣の席にややくたびれてるおじさんが座ってきた。
おやまあ、これは、なんというか、やばいのでは。慣れてないのが、バレてしまう。
"名前はなんだい?"
「オスマンです。」
"セネガル人の名前だな!どこから来たんだい?"
そうやってウォロフ語とフランス語で会話を"楽しんだ"。そう、楽しかったのだ。
一対一、しかも逃場なしの環境で、僕は会話を楽しめたのだ。
そりゃあ完璧じゃない。だけども小一時間、おじさんと会話ができた。
こんな嬉しいことはない。日本を渡航するときの目標で、ウォロフ語で会話をする、これを掲げた。満点ではないにせよ目標をクリアできたんじゃないかと思う。
色々な感情があった3ヶ月だけど、こんなに湧き上がる喜びはない。
酒が入っていたからだろう。おじさんが先に帰ってから何もいうこともできなかった。感極まる。喜びの波が堤防決壊した。叫びたくなった。
悲しみではなく喜びの咆哮だよ!こんなに嬉しいことがあるかね!
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12月になった。1週間後には日本にいる。この前まで逆のことを考えていたのに。
1週間後にはセネガルかぁ。やだなぁ。怖いなぁ。
大丈夫だとも!辛いし苦しいけど、ちょっとだけ、とんでもなく嬉しいこともあるさ!きっとセネガルが好きになるさ。
タイムマシンができたらそう伝えてやろう。