〈542.素直さ全振り医者卵〉
東京から石川県に夜行バスに乗る。となりにはいつもの親しくしてくれている人。正直夜行バスは嫌いなんだけど。金がなくても旅行はしたい、そんな僕らの救世主なわけだ。
石川県で待つは親しき旧友。
僕と高校の部活を共に戦った戦友だ。
どうせ旅行するなら、こいつもいるし石川がベストだね。
こいつはそれはそれはピュアで悪意の一切ないばかちんだ。そのくせ医者の卵なんだからムカつくやろうだ。テニスだとこいつにアドバイスする側だったけど、勉強じゃあとんでもない。
でも悪意のないそこからの素直なやつだ。
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夕方、飯を食いに行った。僕と僕と一緒に石川に来た親しい人、そして医者の卵。
ぼくはそのふたりともよく話す間柄だけど、東京から連れてきた人と医者の卵は初対面。なぜこんな不思議な会を設けたのは謎だが、どうせなら会って欲しいと思ってしまってたんだろうな。
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医者の卵は、やっぱり素直で良いやつだ。初対面なのにガンガン話していく。いや、気を使ってとかじゃなくて、本人が楽しい話をどこまでも話す。実に楽しそうに。
それが楽なのだろう。連れてきた人もいつもより口数が多いように思えた。
やっぱりこの会はありだったのかもしれない。
楽しくて仕方ない。幸せだ。
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僕はトイレに行くことにした。初対面二人を置いていくのはアレかと思ったけど、医者の卵はこんな様子だし、連れてきた人もなかなか酔ってきたし。大丈夫だろ。
トイレから戻ると案の定、医者の卵が高校の部活の話をしているようだった。
なぜか知らないが、医者の卵から僕に対する評価が異常に高い。やめたまえ恥ずかしい。
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名残惜しい気持ちを抑えて、旧友とわかれた。僕は連れてきた人と一緒に宿への帰り道を歩いた。
「"あいつとは一生仲良くしたい"。だって。」
帰り道にその人が伝えてきた。
医者の卵が僕と仲良くしてたいだとさ。
素直すぎないかい。そんな小っ恥ずかしいことをよくもまあ初対面の人に言えるわね。
そういうところがいいところなんだとはわかってるけどさ。
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素直なことってすごい大切な能力だと思うんだ。
もちろん、医者の卵の野郎も素直すぎるが故にトゲトゲしいところがないわけじゃないんだけど。
とはいえ、仲間からは信頼されると思うよ。この素直さは。
いやさ、そんなん言わなくていいべや。一生親しくしたいだなんて。どうせすることになるだろうからさ!
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素直に言わないから、僕は後悔することになったんだけど。
とはいえ難しいよ。素直に言うのは。
嬉しいんだから。言うべきなのはやっとわかったよ。
俺も一生親しくしたいです。
ね。