〈1069.カウンター〉
8月31日。
バイト先は、時々びっくりするくらい暇になることがある。上司や他のバイトさんは普通に仕事があるけども、自分が担当しているところが急に何もない時があったりする。
バイト時間中はそれなりに働きたい性格をしているので、手持ち無沙汰は一番嫌いな時間である。とはいえ持ち場を離れることはできない。
ということで、動作チェックの名目をつけて計数カウンターを永遠にカチカチさせていた。
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一番大きい数字が、9999になるタイプのカウンター。おそらく多くても200くらいしか使われないであろうカウンター。みなさんはどれくらいまでカチカチしたことあるだろうか。
たぶん同じように手持ち無沙汰で目の前にカウンターがあるような状況で、とりあえずカチカチ始める人は少なくないだろう。
しかし、多くの人は100くらいでいいやとなるんじゃないかしら!がんばっても500くらいで満足するんじゃないの。
というのも、カチカチするだけだけど50回くらいカチカチしたらもう飽きるからだ。びっくりするくらい代わり映えしない。
物好きな人は1000まで頑張るかもしれない。
しかし、1000回カチカチするのにはかなりスピードを上げてカチカチしたところで10分から15分くらいかかる。
10分間ずっと高速カチカチしても1000なのだ。
9999を目指すと、1時間半くらいかかることになる。なにもせず、右手あるいは左手をカウンターでカチカチ永遠にし続けること、あなたはできるか。
僕はできた。
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まず1000いくまでの500とか600とかにちょこちょこの達成感がある。そのうち777とかゾロ目になると嬉しくなる。
そうやってようやく1000にたどり着くと、次は2000が目標になる。急に遠くなる。
仕方なしカチカチ続けてみると、途中で気づきがある。2100や2200みたいに繰り上がりがあった瞬間のカチは重みがあるのだ。
これに気づいた時、カウンターを見ずに指先に感じる回転していく数字の重さで今の数字を当ててやろうと思うのだ。
今のカチは他のカチより重かった。たぶん2700だ。おや、もう2800だったか。みたいな。
そうやって新しい発見をするともう4000になる。
4000になると何を思うか。次の5000でようやく折り返し地点だということだ。
ここで一度絶望がくる。1秒で仮に5カチカチできたとしても1000秒で5000回。1000秒÷60秒=16分くらい。
全力カチカチで15分で終わる。とはいえ1秒5回カチカチを続けられるわけがない。集中力が切れるし、ちょっとした仕事があるかもしれない。なにより1秒5カチカチはかなり全力だ。短距離走でフルマラソンできるわけないようなもんだ。
この計算をしているといつのまにか6000になっている。
あとの7777とか8888とかゾロ目の楽しみを目指して、もはや別のことを考えてカチカチすることになる。
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さて実際に9999になった時、人は何を思うか。
なぜか、自己肯定感を得られるのだ。遠くて虚無の道のりでもおれはやりきった。それができる人間なのだと。人は9999カチカチできるやつとできないやつに分けられると。
そんなくだらない時間潰しでした。