〈967.空の巣〉
5月21日。
玄関先にツバメが落ちていたらしい。
先週あたりに現れた蛇対策にと設置したトリモチが翼にくっついてしまっていた。トリモチの設置を提案したのは僕だったので非常に申し訳ない。
トリモチのおかげかはわからないが蛇が現れず、無事にヒナが成長して飛べるようになったと思ってまもない時期だった。
ヒナドリが飛ぶ練習をしていたらうまく飛べずにトリモチに突っ込んでしまったのだろう。それを助けようとした親鳥にもトリモチがついてしまった。
全部で6羽いたツバメは今は1匹だけになってしまった。人間が触れた鳥は仲間外れにされるとか聞いたことがある。残されたあの子はトリモチの子だろうか。それともそれを助けようとしていた親鳥だろうか。
他の奴らはどこかにいってしまったのだろう。
。
ツバメは上手に飛ぶ。急スピード、急停止が日常茶飯事なのは毎日のように見ていた。そして壁に激突することもなければツバメ同士の衝突もない。
だから巣の近くにトリモチを設置しても迷惑なのは蛇だけだと思った。
しかしながら例外はあるらしい。それが練習中の子供なら確かにそうだろう。
誰もいなくなってしまった巣。その近くの電線でこちらをずっと見ているツバメ。彼は何を思っているだろう。親鳥だろうか。子供にはすまないことをした。ごめんなさい。
。
やはり自然な出来事に手を出すべきではなかったのかもしれない。蛇が出ても、猫が出ても、たとえそれが巣に侵入しようとも黙殺すべきだったのかもしれない。それが自然なんだろう?
利害関係のない人間が私的な感情で肩を持とうとするから何もうまくいかないのだ。おそらくトリモチのついたヒナドリの羽がきちんと開くことはない。飛べない鳥は敵地に丸裸で放り投げられているようなものだ。
しかし、トリモチを設置したからこそ猫も蛇も巣に寄り付かなくなったのかもしれない。6羽いたうちの最低でも4羽は生きているであろう今を迎えているのはそのおかげかもしれない。
もしもの話をしても仕方ないが、そう思わないと玄関を通るのが申し訳なくて仕方ない。
。
来年からは何も干渉するまい。
いつも通り生活して、たまたま蛇を見つけては追っ払い、猫を見つけては追いかける。何も知らない。何ものにも関与しない。ただ生活する上で脅威や害を取り除くだけ。そうしよう。
来年も来てくれればそうしよう。